鹿の王
上橋菜穂子(うえはしなほこ)さんの紡(つむ)ぎ出す言葉の表現は、
登場人物(とうじょうじんぶつ)の様子(ようす)や心情(しんじょう)が
つぶさに見てとれて、
読んでいると、素人(しろうと)の私でさえも、
この役はどの俳優(はいゆう)さんがいいかなあと
配役(はいやく)を考えながら読んでしまいます。
そんな風に物語が心の中で映像化(えいぞうか)されて、
その世界にたっぷりと浸(ひた)るまでに少し時間がかかる本も多いですが、
この本は、読み始めたらすぐに面白(おもしろ)くて、
物語の中へどんどん分け入って行くのが楽しくてなりませんでした。
それに、どこかに書き留(と)めておきたいようなセリフが多くあります。
私が特に印象(いんしょう)に残ったのは、
主人公のヴァンが語った「鹿の王」と「鹿の長(おさ)」の違(ちが)いのところです。
人それぞれに心に響(ひび)く場面(ばめん)は違(ちが)うでしょう。
読んで、友だちと出し合うのも楽しそうです。
また、この本のテーマは感染症(かんせんしょう)ですから、
読むと、感染症についての基礎知識(きそちしき)を得(え)ることができます。
加(くわ)えて、大きな民族(みんぞく)が小さな民族の土地を
侵略(しんりゃく)していく時代が背景(はいけい)にありますので、
他民族国家(たみんぞくこっか)の複雑(ふくざつ)な事情(じじょう)についても
考えを巡(めぐ)らせることができます。